書店に行けば、エニアグラムの本は「心理学」や「精神世界」の棚に並んでいます。帯には決まって、あなたの内面へ目を向けるように仕向ける言葉が並んでいます。
「本当の自分を知る旅へ」「内なる輝きに気づく」
あなたにお聞きします。その「内なる輝き」は、明日の会議の空気を、気難しい上司との関係を、具体的にどう好転させましたか?
もし答えが「なんとなく心が軽くなった」程度のものであるなら、あなたはエニアグラムという対人関係における「最強のフレームワーク」を、ただのお守りとして懐にしまい込んでいるようなものです。
エニアグラムは、自分の機嫌を自分でとるためのツールではありません。理解不能な「他人」を分析し、攻略するためのツールとして使うべきではないでしょうか。
日本と海外で異なるエニアグラムの使われ方
日本では、エニアグラムは「自分を知るためのツール」として紹介されることがほとんどです。書籍のタイトルを見ても、「本当の自分に出会う」「9つの性格」といった、内省を促すものが目立ちます。
一方、アメリカではエニアグラムの活用領域が大きく異なります。ビジネススクールやリーダーシップ研修で、「優秀なリーダーはなぜ判断を誤るのか」「チームの機能不全はどこから生まれるのか」といった組織課題の分析フレームワークとして浸透しています。
つまり、日本のエニアグラムは「守り」、海外のエニアグラムは「攻め」なのです。
自分の弱さを受け入れるための「守りのエニアグラム」か。他者を理解し、関係性を設計するための「攻めのエニアグラム」か。
当サイトは、後者の立場を取ります。
「共感」の限界と「分析」の必要性
ビジネス現場で私たちが直面する最大の障害は「理解不能な他人の振る舞い」です。
なぜ、あの部下は指示待ちのまま動かないのか。なぜ、あの上司は細部にばかり固執して全体を見ないのか。なぜ、あの同僚はリスクを無視して突っ走るのか。
多くの自己啓発本は「傾聴」や「共感」を説きます。しかし、行動の原理が根本的に異なる相手に対し、感情的な共感を試みても、疲弊するだけで解決には至りません。
異なる原理で動く相手を攻略するには、相手の思考を解読する「分析」が必要なのです。
定説への疑問:「タイプ3・6・9」は本当に変わるべきなのか?
当サイトでは、従来のエニアグラム理論に対して、実務的な視点から再検討を加えています。特に、各センターの核となるタイプ「3(達成者)」「6(忠実な人)」「9(平和をもたらす人)」の扱いについてです。
従来の理論では、彼らは「統合の方向」へ向かうことが成長だとされています。タイプ3はタイプ6のようにチームに尽くすこと、タイプ6はタイプ9のように穏やかになること、タイプ9はタイプ3のように成功を目指すこと。
私はこの定説に疑問を持っています。
タイプ3の人に「チームに尽くせ」と言う必要があるでしょうか? 彼らは成功を目指す過程で、すでにチームを動かす術を身につけています。タイプ6の人に「平和主義者になれ」と言う意味があるでしょうか? 組織への忠誠心を持つ彼らは、すでに十分に協調的です。タイプ9の人に「成功を目指せ」と言うべきでしょうか? 調和を重んじる彼らは、すでに周囲から信頼を得ています。
これは「成長の方向」というより、「図形の対称性を優先した理論的帰結」に見えます。
あなたはどう感じますか?
私の見解はこうです。タイプ3・6・9は、すでに社会が求める性質を備えています。「成功への渇望」「組織への忠実さ」「平和主義」という、現代社会で高く評価される資質です。彼らに必要なのは、別の何かに変わることではなく、その強みの「オーバーヒート」を抑えることではないでしょうか。
タイプ3は、成功への過剰な渇望を少しクールダウンさせる。タイプ6は、不安に対する過敏なセンサーの感度を少し下げる。タイプ9は、平和のための過剰な同調を少し緩める。
この考え方については、今後の記事で詳しく展開していきます。
「攻略」という言葉について
ここまで読んで、「攻略」という言葉に違和感を覚えた方もいるかもしれません。
誤解のないように補足します。相手の行動原理を理解することは、相手を操作することではありません。無益な衝突を避け、互いの強みを活かす土台を作ることです。
VBAが「業務」を自動化し、投資が「資産形成」を効率化するように、エニアグラムはあなたの人生における最も不確実な要素である「人間関係」を、予測可能で、改善可能なものへと変えます。
それは相手を支配することではなく、相手との関係を「設計」することです。
このサイトのエニアグラム論について
当サイトでは、エニアグラムを対人関係における「最強のフレームワーク」として展開していきます。
「本当の自分を見つける」という曖昧なゴールではなく、「目の前の相手とどう関わるか」という実務的な問いに答えることを目指します。「守りのエニアグラム」ではなく、「攻めのエニアグラム」として。
自分を見つめる時間は、もう十分ではないでしょうか。
そこには、攻略すべき「他者」という広大な領域が広がっています。その地図を持たずに、手探りで進み続けますか? それとも、フレームワークという武器を持って、戦略的に関係を築きますか?

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