導入:その「期待」は、あなたを窒息させるためのものではない
「現状維持は衰退だよ。もっと高みを目指そう」
「君ならもっとできるはずだ。期待しているよ」
上司からこんな言葉をかけられた時、感謝よりも先に、胃のあたりが重くなる感覚に襲われたことはありませんか?
もしあなたがタイプ9(調停者)の傾向を持ち、上司がタイプ3(達成者)であるなら、その重圧の正体は「叱責」ではなく「過剰な期待」です。
現代のタイプ3上司は、かつてのように怒鳴り散らすことはしません。彼らはスマートで、部下の成長を願う「良きリーダー」であろうとします。しかし、だからこそ厄介なのです。彼らは「成長欲求がない人間など存在しない」という前提で、笑顔であなたに高いハードルを課してきます。
「なんでワクワクしないの?」という無邪気な圧力。
これこそが、平和を愛するタイプ9の心を、真綿で首を絞めるように潰していくのです。
この記事では、そんな「意識の高い暴走車」の助手席に乗せられてしまったあなたが、潰されずに自分の平和を守るための「ブレーキ操作」について解説します。
タイプ9の耳には、こう聞こえている
敵を知ることは、無駄な戦いを避ける(=平和を守る)ための第一歩です。
タイプ3の上司は、あなたを攻撃しているつもりなど1ミリもありません。彼らは「あなたのため」を思って、彼らにとっての最高のご馳走である「競争」や「挑戦」を分け与えようとしているだけなのです。
しかし、彼らの言葉がタイプ9の耳にどう届くかは、また別の話です。
「圧倒的な成果を出して、みんなを驚かせよう」
→ タイプ9の耳には:「俺のペースについてこい。休んでいる暇はないぞ」
「ここが正念場だ。ストレッチ(背伸び)しよう」
→ タイプ9の耳には:「定時で帰れると思うなよ」
「君のキャリアのために言っているんだ」
→ タイプ9の耳には:「僕のチームに”普通の社員”がいると、僕の評価が下がるんだ」
悪気がないのが最大の問題です。彼らにとってこれらは「正義」であり「愛」なのです。
しかし、平穏を願うあなたにとっては、価値観の押し付け以外の何物でもありません。
ここで重要なのは、「彼らの焦りは、彼らの問題である」と切り分けることです。
まともに受け止めると、あなたは確実に潰されます。
「潰されない」ための防衛戦略:真正面から受け止めない
では、どうすればこの上司とうまく付き合えるのでしょうか。
絶対にやってはいけないのは、「無理です」「できません」と感情的に拒絶することです。それは彼らにとって「反逆」と映り、さらなる介入(マイクロマネジメント)を招きます。
タイプ9の最大の武器である「受容力」と「調整力」を、こう使いましょう。
戦略1:ブレーキ役としての「ポジション」を確立する
彼らはアクセルを踏むことしか考えていません。だからこそ、あなたが「ブレーキ」や「ハンドル」の役割を担うのです。
悪い例:
「そんな急にはできません(拒絶)」
良い例:
「その目標は素晴らしいですね。確実に達成するために、ここで一度リスクを確認させてください(調整)」
「あなたの成功のために」という枕詞をつけることで、あなたの「慎重さ」は「遅さ」ではなく、「失敗を防ぐための安全管理」という価値に変わります。彼らは失敗(=自身の評価ダウン)を恐れるため、安全策には耳を貸します。
戦略2:小さな称賛で「燃料」を補給する
タイプ3は、実は人一倍「認められたい」と願っています。彼らがプレッシャーをかけてくる時は、自分自身が不安な時です。
「嘘をつけ」という話ではありません。
彼らの行動の中には、必ず「事実として認められる部分」があります。
「決断が速い」「行動力がある」「視座が高い」——
その事実だけを拾って伝えればいいのです。
「その判断、さすがに速いですね」
「その視点は勉強になります」
彼らの承認欲求が満たされると、精神的に安定し、あなたへの攻撃性が驚くほど下がります。
あなたの「平穏」を守るための投資だと思えば、悪い取引ではないでしょう。
戦略3:手柄を渡して「平穏」を買う
戦略1と2を続けていると、自然とプロジェクトが成功に向かうことがあります。
その時、手柄はすべて上司に渡しましょう。
「あなたの方針が良かったからです」
「リードしていただいたおかげです」
タイプ3は名誉を欲しがります。
一方、タイプ9のあなたが本当に欲しいのは、「誰にも邪魔されない平穏な環境」のはずです。
「名誉」と「平穏」。
お互いが欲しいものを交換する取引だと割り切れば、これほど相性の良いペアはいません。
手柄を渡すことで、上司はあなたを「自分の成功に貢献する人間」と認識します。
結果として、あなたへの干渉は減り、自由度が増す。これが「助手席からコントロールする」という戦略の完成形です。
結論:助手席から組織をコントロールする
上司に振り回されているように感じるかもしれませんが、実は組織において「主導権」を握れるのはあなたです。
なぜなら、タイプ3は視野が狭くなりがちだからです。彼らが目先の数字や評価に盲目的になっている間、一歩引いて全体を見渡せるのはタイプ9のあなただけです。
「潰されない」ために必要なのは、頑丈な壁を作ることではありません。
柳のようにしなやかに受け流し、相手の力を利用して自分の居場所を確保することです。
もし、相手のタイプごとの攻略法をより深く知りたいなら、エニアグラムの基礎を学ぶことが最強の防具になります。
自分を殺してまで、上司の期待に応える必要はありません。
あなたの「穏やかさ」は、暴走しがちな組織にとって、なくてはならない機能なのですから。


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